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『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』

 昨年末に図書館に予約を入れて7月下旬にようやく順番の回ってきた『狂うひと』を読んだ。

 『死の棘』自体は読んだことはなくて小栗康平の映画で観ている。岸部一徳と松坂慶子の夫婦が暗い部屋の中でずっと座ったままスクリーンに向かってセリフを淡々と話していたイメージ。話されてることは辛辣なのに物静かな暗い画面からそんな雰囲気は感じないというか、正直途中で寝オチしてしまったのだけど、この本はものすごかった。

 机に開かれて置いてあった日記の文面から夫の不貞を確信しその瞬間にケダモノになった、と回想する妻。その妻・島尾ミホの側から見た『死の棘』を語ってもらうことを目的として取材を重ねていた筆者が、突然当人から取材を拒まれ、やがてミホが没した後、遺された敏雄とミホの膨大な日記や書簡など資料を出版社と遺族と整理していくうちに、浮かび上がってきた「裏・死の棘」といっていい記録。本書はそれを元に島尾夫妻の生涯を丹念に追ったノンフィクションだ。

 特攻隊長と島の女教師の悲恋純愛として終わっているはずだった敏雄とミホの恋が戦後まで永らえたことも大きかったのかもしれないけれど、それならそれで幸せな生活は選べなかったのかな。そう行かなかったからこその数奇な運命なんだろうけれど。

 もともと単に女癖の悪かっただけなのか、中央の文壇で成功するために実生活にさざ波を起こしてネタにしたもののそれが自分の手に余るほどの反動を引き起こしただけなのかよく分からないけれど、書いた作品はどうあれ本当に仕向けた結果ならば敏男は人としてサイテーだと思う。

 ミホにしても狂気の淵から戻って自らも「書く人」となり、自分たち夫婦を「聖夫婦」みたいな存在に高めているように見えるのもなんとなく胡散臭いように思えなくもない。ただ、恋にどっぷりはまっているときに悲劇だろうが歓喜だろうが何があっても自分目線というか「主人公はわたし」みたいに思い込むのは理解できるけれど、その熱のようなものが初めて出会ったその日から紆余曲折を経て何十年後の寿命を迎えるまで、プラスにも時にはマイナスにもベクトルを変えながら持続し続けるってものすごいエネルギーを持った人だったのだと思う。ただただ圧倒されるばかりだ。

 ただ、こんな両親の様子を幼いときから見せられてきた子供たちは本当にかわいそうだよね。
と思いながら、今度は島尾伸三の本を読んでみようと思っている。
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